採用コストとは?内訳と算出方法について
採用コストとは、企業が新たな人材を採用する際に発生する全ての費用の総称です。採用コストを正確に算出し、予算を管理することは、人事部門にとどまらず企業経営にとって非常に重要です。
採用コストの内訳は、大きく「外部コスト」「内部コスト」に分けられます。それぞれ、詳しくみていきましょう。
外部コスト
採用活動における外部コストとは、企業が外部のサービスやリソースを利用する際に発生する費用です。具体的には、次のような費用が挙げられます。
- 求人広告の掲載費
- 人材紹介会社の成功報酬
- 採用イベントの出展費など
これらの外部コストは、企業の採用活動において大きな割合を占めるケースが多く、年間でみると相当な金額にのぼることがあります。特に、外部コストは年々高騰している傾向があります。
外部コストが高くなる主な理由としては、求人広告の掲載費や人材紹介会社の手数料が高額であることです。求人広告は、求職者にリーチするための有効な手段ですが、その費用は広告媒体や掲載期間によって異なります。複数の媒体を使えば、その数に比例してコストが増大します。
また、人材紹介会社の場合は、成功報酬として採用者の年収の一定割合(理論年収の35%など)を支払う必要があり、こちらも大きな負担となっています。
内部コスト
採用活動における内部コストとは、企業内部で発生する費用のことを指します。具体的には、次のような費用が挙げられます。
- 採用担当者や面接官の人件費
- 面接に伴う交通費や飲食費
- 社内での選考プロセスにかかる諸経費など
これらの内部コストは、直接的な支出ではないものの、見過ごすことのできない重要な要素です。
内部コストが高くなる要因としては、採用プロセスの長期化・複雑化が挙げられます。例えば、多くの面接回数や長時間の選考プロセスは、人件費を増加させる要因です。また、社内のコミュニケーション不足や採用プロセスの不透明さによって、生産性が下がり時間とコストの無駄を生み出します。
一人当たり採用コストの平均相場とは
企業が新たな人材を採用する際に発生する採用コストは、採用方法や雇用形態によって大きく異なります。ここでは、正社員と非正規社員(契約社員・アルバイト)に分けて、一人あたり採用コストの平均相場を解説します。
正社員
採用コストは手法によって変動しますが、正社員の採用コストは以下のとおりです。
- 求人情報誌・チラシ:平均11.3万円
- インターネットの求人情報サイト:平均28.5万円
- 人材紹介会社:平均85.1万円
- スカウトサービス:平均91.4万円
このように、求人媒体を中心に採用活動を進めた場合は約10万〜30万円が相場となり、一方で人材紹介やスカウトサービスを進めた場合は約90万円が相場であることがわかります。
ただし、これらはあくまでも平均であり、実際には地域・職種・雇用条件・待遇などによって変動する可能性があります。
非正規社員(契約社員・アルバイト)
非正規社員の採用コストは、正社員に比べて低い傾向があります。
- 求人情報誌・チラシ:平均7.7万円
- インターネットの求人情報サイト:平均10.8万円
- 人材紹介会社:平均19.2万円
- スカウトサービス:平均44万円
ただし、非正規社員は正社員に比べて定着率が低い傾向にあるため、年間の採用人数によっては相当な金額になる可能性もあります。いかに効率的に採用を進めるかが、採用コストを抑える鍵となるでしょう。
平均採用コストが上昇している理由
採用コストが年々上昇している背景には、いくつかの要因があります。主な理由としては、次の3つです。
- 適切な採用手法を選択できていない
- 採用担当者の業務量が増加している
- 入社後のミスマッチによる早期離職が増えている
それぞれの背景も含めて、詳しくみていきましょう。
適切な採用手法を選択できていない
適切な採用手法を選択できていないことは、採用コストが上昇している主な理由の一つです。これまでは、求人広告媒体に求人情報を掲載したり、人材紹介会社に依頼したりすれば、比較的かんたんに応募者を集めることができ、採用もスムーズに進みました。
しかし、労働人口の減少や採用市場の競争が激化し、求職者のニーズが多様化したことで、候補者を集めることが難しくなっています。
こうした状況のなかで、従来の採用手法を続けたり、闇雲に新しい手法に手を出したりすると、採用コストがさらに増えてしまうでしょう。したがって、世の中の変化や競合の状況にあわせて、最適な採用手法を選ぶことが大切です。
採用担当者の業務量が増加している
採用担当者は、媒体選定や求人票の見直し、SNSを活用した広報活動、採用ピッチ資料の作成など、多岐にわたる業務を行う必要があります。さらに、候補者への迅速かつきめ細やかな対応も求められます。
これらの業務量の増加により、担当者の負担が大きくなり、効率的な採用活動が難しくなることがあります。採用担当者の業務負担を減らすためのデジタルツールの導入や、人材採用に関する専門的な知識・スキルの習得が必要です。
入社後のミスマッチによる早期離職が増えている
コストをかけて採用した人材が早期に退職すると、再び採用活動を行う必要が生じ、さらにコストがかかります。近年では、働き手側の退職代行サービスの利用が急増しており、ますます早期離職のリスクが高まっています。
早期離職が発生する背景には、採用プロセスでの適性評価や企業文化との適合性の見極めが不足していることがあります。企業は、適性評価ツールや手法を導入し、ミスマッチを防ぐ対策を強化することが重要です。
採用コストを削減する方法8選
採用コストを削減しつつ質の高い人材を確保するためには、効果的な手法とツールの導入が不可欠です。ここでは、採用コストを削減する具体的な方法を8つご紹介します。
採用管理システム(ATS)を導入する
採用管理システム(ATS)の導入は、採用コスト削減の有効な方法です。ATSを使用することで、採用プロセス全体を一元管理し、効率化できます。
例えば、応募者の情報を自動で整理し、選考の進捗状況をリアルタイムで把握できます。これにより、採用担当者の作業負担が軽減され、時間を節約できます。結果として、迅速かつ効果的な採用が可能となり、コストの削減に繋がります。
自社HP(オウンドメディア)を活用する
自社HP(オウンドメディア)を活用することで、外部の求人広告費用を抑えつつ、質の高い応募者を集めることができます。コーポレートサイトや採用サイトに、自社の魅力や文化を伝えるコンテンツを充実させることで、求職者の共感を得ることができます。これにより、広告費用を削減しながらも、自社のカルチャーにフィットする人材を効果的に集めることができます。
ソーシャルメディアを活用する
ソーシャルメディア(SNS)を活用することも、採用コスト削減の一環として非常に有効です。例えば、Instagramを活用して社内の雰囲気を魅力的に伝えることで、求職者の興味を引くことができます。また、noteを使って経営者インタビューや社員インタビューを行い、企業の価値観や働き方を詳しく紹介することで求職者の共感を得られやすくなるでしょう。
他にも、LINEを利用して選考活動を効率化することも有効です。これらの手法を組み合わせることで、採用コストを抑えながらも効果的な採用活動が実現します。
リファラル採用を行う
リファラル採用とは、従業員や知人からの紹介を通じて採用活動を行う手法です。縁故採用とは異なり、紹介者のネットワークを活用して質の高い人材を獲得することを目的としています。
リファラル採用のメリットは、採用コストを抑えつつ信頼性の高い候補者を得られる点です。紹介された候補者は既に社内の文化や価値観に理解があるため、定着率が高く、早期離職のリスクも低くなります。
採用代行サービスを活用する
採用代行サービスを活用することで、部分的な採用業務を専門の企業に委託し、効率化を図ることができます。例えば、スカウト送信や求人作成、候補者のスクリーニングなどを代行してもらうことで、採用担当者の負担を軽減し、コア業務に専念できるでしょう。
採用代行サービスを手がける会社の多くは、高い専門知識やノウハウを持っています。その結果、高い費用対効果が期待でき、全体の採用コスト削減にも貢献します。
柔軟な働き方を取り入れる
柔軟な働き方を取り入れることで、広範囲から優秀な人材を採用しやすくなります。例えば、リモートワーク、副業、子連れ出勤、ペット可出勤、時短勤務、週休3日制など、多様な働き方を認めることで、求職者のニーズに応えることができます。これにより、採用力が高まり優秀な人材を獲得しやすくなるでしょう。
従業員満足度を高め離職率を抑える
従業員満足度を高めることで、離職率を抑え、定着につながります。例えば、組織サーベイを実施して、従業員の不満やストレス状況、職場環境の問題を可視化し、改善できる点から着手することが有効です。結果として、社員の定着率が高まり、年間採用コストの抑制につながるでしょう。
一部の業務を外部に委託する
一部の業務を外部に委託することで、採用コストを削減できます。副業人材やフリーランスの増加に伴い、高度な専門スキルを持つ人材が市場に増えているため、これらの人材を活用することが効果的です。
例えば、ココナラ、ランサーズ、クラウドワークスなどのプラットフォームを利用して、業務を外注することで、既存の従業員はよりコアな業務に専念できます。
採用コストを適正化するステップ
採用コストを適正化するためには、具体的なステップを踏んで計画的に進めることが重要です。ここでは、効果的な適正化のための手順を5つのステップに分けてご紹介します。
年間の採用コストを正確に把握する
まず、年間の採用コストを正確に把握することが重要です。企業が採用にどれだけの費用を費やしているのかを把握することで、無駄な支出を特定しやすくなります。先述したとおり採用コストには、内部コストと外部コストがあります。
これらの費用を詳細に記録し、年間の合計を算出することで、採用コストの全体像を把握できます。適正なコスト管理によって、無駄な支出を抑制できるでしょう。
採用活動全体を可視化し課題を特定する
次に、採用活動全体を可視化し、課題を特定することが必要です。採用プロセスの各段階を詳細に分析し、どの部分でコストがかかりすぎているのか、またどの部分で効率が低下しているのかを明らかにします。
例えば、面接の回数が多すぎる、求人広告の効果が低い、応募者の質が低いなど、具体的な問題点を洗い出します。このように課題を特定することで、改善すべきポイントが明確になり、効果的な対策を講じることができます。
採用プロセスごとにKPIを設定する
課題を特定したら、採用プロセスごとにKPI(重要業績評価指標)を設定します。KPIは、採用活動のパフォーマンスを測定するための具体的な指標であり、目標達成のための重要な要素です。
例えば、応募者の数、面接から採用までの期間、採用コスト一人当たりの金額などをKPIとして設定します。これにより、各プロセスの進捗状況を定量的に評価でき、改善の必要がある部分を客観的に把握できます。KPIを明確にすることで、採用活動の効果を最大化し、コストの適正化を図ることができます。
各プロセスごとに改善策を実行する
KPIを設定した後は、各プロセスごとに具体的な改善策を実行します。例えば、面接の回数を減らす、オンライン面接を導入する、求人広告の掲載媒体を見直すなど、具体的なアクションを取ります。
また、採用管理システム(ATS)を導入することで、応募者情報の一元管理や選考プロセスの効率化を図ることも有効です。改善策を実行することで、採用活動の効率が向上し、コストを削減できます。
定期的に検証・改善を繰り返す
最後に、定期的に採用活動を検証し、改善を繰り返すことが重要です。定期的なレビューを行い、KPIの達成状況や改善策の効果を評価します。その結果に基づき、さらなる改善点を特定し、次のアクションプランを策定します。
このPDCAサイクルを繰り返すことで、採用活動の精度が高まり、持続的に採用コストを適正化することが可能となります。定期的な検証と改善を怠らず、常に最適な採用プロセスを維持することが重要です。
採用コストの削減に成功した企業事例
効果的な採用戦略と改善策を講じることで、採用コストの削減につながります。ここでは、採用コストの削減に成功した企業の事例を4つご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
株式会社タダノシステムズ
香川県でクレーン関連のICT事業を展開する株式会社タダノシステムズは、地域に限定された採用活動のため、優秀な人材を確保することが難しいという課題に直面していました。
この問題を解決するため、テレワークやサテライトオフィスを導入し、リモートワーク環境を整備。これにより、全国各地から多様な人材を募集できるようになりました。その結果、採用範囲が広がり、採用コストを抑えつつも質の高い人材を確保することに成功しています。
株式会社丸山組
新潟県で総合建築業を展開する株式会社丸山組は、既存の評価制度が社員の実績や貢献度を正確に反映しておらず、社員のモチベーション低下と高い離職率に悩まされていました。
これを解決するために、人事評価制度を再構築し、透明性と公平性を重視した新しい制度を導入。この取り組みにより、社員のモチベーションが向上し、離職率の低下を実現しました。結果として、採用コストの削減に成功し、組織全体の業務効率も向上するなど高い成果を実現しています。
株式会社りゅうせきフロントライン
沖縄県を中心に複数事業を展開する株式会社りゅうせきフロントラインは、各部門間の連携不足による採用活動の非効率性に問題を抱えていました。
この課題を解決するために、人事部、事業部、経営者の3者による定期的なミーティングを実施。これにより、採用の優先順位が明確になり、迅速な意思決定が可能となりました。その結果、応募数が1年後に3倍、採用数が4倍に増加し、採用活動の効率化と採用コストの削減を達成しています。
株式会社ILG
株式会社ILGは、採用活動が断片的で全体的な戦略が欠如しているという課題がありました。この問題に対して、採用活動の方法だけでなく、ターゲット設定や評価制度、社内環境、教育体制など、あらゆる面を全面的に見直し。
これにより、採用活動の精度が大幅に向上し、採用コストの削減に成功しました。また、質の高い人材を効率的に確保できるようになり、企業全体の成長にも寄与しています。
まとめ
採用コストの削減と質の高い人材確保を両立するためには、効率的な採用プロセスと戦略的なアプローチが必要です。具体的なステップとしては、年間採用コストの把握、採用活動の可視化、KPIの設定、改善策の実行、定期的な検証・改善が挙げられます。
今回ご紹介した成功事例をはじめ、他社の取り組みも参考になります。そのうえで、自社に適した方法を見つけ、戦略的な採用活動を進めることで、採用コストを削減しながらより良い採用活動を実現しましょう。