就活ルールの撤廃
前章でも少し経団連のルールという言葉が出てきましたが、少し前まで就活には、学業や学生生活の妨げになるのを防ぐためのルールが経団連により定められていました。
一方で、経団連のルールは加盟している企業のみにしか適用されません。そのため、外資系企業やベンチャー企業を中心とした、経団連に加盟していない企業は、ルールに縛られることなく通年採用や早期の採用など、自由にそれぞれの会社独自の新卒採用を行っていました。そのため、就活ルールの形骸化が進んでいたのです。
そんななか、2021年卒の就活より経団連のルールが撤廃されました。代わりに国が主導することとなりましたが、しばらくは現状維持となる予定で、今のところ大きな変化は生まれていません。さらに国が主導するとは言っても強制力はなく、各企業に任されています。
通年採用が注目されていることからもわかるように、企業はこれまでのルール通りの新卒採用ではなく、新たな新卒採用のかたちを模索しています。こうしたことから、就活ルールの形骸化の流れは止まらないでしょう。
また、優秀な学生ほどインターンなどを活用して早期に就職活動を始めているという事実もあります。そのため、早期に採用活動を開始しないとよい人材の採用が難しくなりつつあるのが現状です。
このような背景を鑑みると、通年採用は引き続き広まっていくこととなるでしょう。
通年採用のメリット
慎重に学生を選べる
一括採用の場合は、説明会実施の時期や選考が開始する時期などが決まっているため、一度に多くの学生を見ていくこととなり、じっくりと学生を選考していくことが難しいです。
一方、通年採用であれば応募や面接が多い時期というのは一定ありますが、一括採用に比べると年間を通してゆっくりと採用活動を行っていくことができます。新卒の場合、中途に比べてどうしても仕事内容や会社についての理解が浅くなりがちです。そのため、ミスマッチの危険性も高いです。
通年採用を活かして、学生とのマッチ度や学生側の理解度を慎重に確認しておくことで、このようなミスマッチが起きにくいより良い採用活動ができるかもしれません。
多様な学生と出会える
6月から選考が始まることの多い一括採用では、そのタイミングで選考に参加するのが難しい留学している学生や海外の学生などを採用するのは難しい可能性があります。また、留学などの理由以外にも、個別の事情で一括採用の時期には選考に参加するのが難しいものの優秀な学生がいる可能性も。
通年採用を実施し学生がいつでも応募できる環境を整えておくことで、こうしたこれまで取りこぼしてしまっていた学生からの応募も獲得しやすくなります。多様性に溢れた組織を作っていこうとしている企業にとっては特に、通年採用のメリットは大きいと言えるでしょう。
内定辞退にも対応しやすい
優秀な学生ほど、自社以外の企業からも内定を獲得しているものです。とくに新卒採用の場合は選択肢が多い分、中途採用に比べると内定辞退は起きやすくなってしまいます。
一括採用の場合、一度終えてしまった新卒採用をまた改めてやり直すこととなるなど、補完するのにも大きな人的コストがかかることとなります。一方通年採用を行っていれば、もし内定辞退が起きてしまった場合にも、比較的容易に補完することができるのです。
一人ひとりの学生と向き合いやすい
通年採用を行っていると、年間を通じてじっくりと採用できるため、一人ひとりの学生としっかり向き合うことができます。
先述の見極めの部分もそうですが、例えば選考後のアドバイスなどのアフターフォローを丁重にしたり、学生側のインサイトに合わせて選考フロー外で社員との面談をセッティングするなど、一括採用では難しいCX向上のための取り組みにもリソースを割きやすくなります。CXの向上は内定承諾率の向上や意向醸成にも繋がるため、そのための取り組みをしやすいことは、大きなメリットとなるでしょう。
通年採用のデメリット
志望度が低い応募者が集まってしまう可能性
通年採用を行っていると、第一志望に落ちてしまって今から受けられる企業も少ないし…といった消極的な理由での応募者が集まってしまう可能性があります。第一志望でうまくいかなかった学生のなかにも、切り替えて新しく自分が良いと思える会社を探そうとする学生もいますが、残念ながら就活自体や応募する企業への熱意が薄れてしまう企業も多いです。
説明会や面接といった直接的な候補者との接点での魅力づけはもちろんのこと、採用広報などでの訴求にも力を入れ、自社への意向を高めるための施策が必要になりそうです。
通常のスケジュールにも制約される
通年採用を行っている企業は増えてきましたが、一般的な就活のスケジュールに則って新卒採用を行っている企業はまだまだ多いです。そのため、そういった企業に合わせて学生も活発に動くこととなります。
積極的に動き出すのが早い分には問題ありませんが、遅くなってしまうとほかの企業に負けてしまい優秀な人材が採用できないかもしれません。通年採用とはいえ、ある程度は一般的なスケジュールに合わせて動く必要があることは念頭に置いておきましょう。
通年採用を成功させる具体的手法
①ペルソナ設計
採用活動におけるペルソナとは、採用したい人物像のことです。
ペルソナが設計されていないと、せっかくの施策が自社の採用したい人材には響かないものとなってしまうことも。候補者の心を掴む採用活動を行っていくためにも、ペルソナ設計は必ず行っておきましょう。
ペルソナ設計の際は、エンジニアとして活躍したい都内の学生といった大まかな属性のみで設計するターゲットとは違って、抱えているキャリア課題や実現したいキャリアビジョン、日々の過ごし方やパーソナリティなど詳細に設計していきます。
すでに同じポジションかつ1〜3歳上で活躍している新卒入社した社員がいる場合は、その人物を参考に作るのがおすすめです。また、ペルソナは一度設定したら変更しないものではありません。採用活動の状況や社内の状況に合わせて変化させていくものです。もし前例となる社員がいない場合でも、一旦仮で設定しておいて、採用活動を進めながら内定者や最終フェーズまで進んだ人をもとに改善していくのがよいでしょう。
②採用計画立案
採用計画を立てる際は、事業計画と連動させて考えることが欠かせません。
複数事業がある場合、注力したい事業に従事する人材をたくさん採用するのはもちろんのこと、事業の優先度により採用活動での優先度も変わってきます。
今後の事業計画を深く理解した上で、必要な採用人数とその優先度を決定し、その人数を確保するために必要な応募者数や面接者数、内定者数などを細かく設定していきます。
またこのタイミングで、①で設計したペルソナをもとに、どの媒体を使いどのような施策を行うのが最も適しているのかといった具体的な手法についても決定していきましょう。
③ポジショニングマップ作成
就活ルールの形骸化やインターンシップの一般化、採用のオープン化などを背景に、新卒採用はどんどん難しくなっています。このように採用競争が激化するなかで、新卒採用を成功させるためには差別化が必要不可欠です。
自社の差別化ポイントを知るために有効なのが、ポジショニングマップの作成です。
これまでの採用活動や社員へのヒアリング等を通じてわかった自社の強みである要素で2軸設定し、4象限図で作成し、そのなかで自社や採用競合はどこに当てはまるのかを整理していきます。
ここで注意すべきことがふたつあります。ひとつは、採用競合ではなく事業上の競合との比較してしまわないようにすること。もうひとつは、相関関係のある要素ふたつを選ばないことです。例えば、「社員の年齢×給与」の場合は片方が高くなるともう片方も高くなるため、ポジショニングマップが偏ってしまい意味をなさなくなってしまうかもしれません。それぞれ独立した要素ふたつで、ポジショニングマップを作るようにしましょう。
④魅力作り
続いては、自社独自の魅力を作っていきます。
ここで特に大切な概念が、PoD(Point of Difference)と呼ばれるものです。PoDとは、候補者が求めているものの採用競合には提供できていない魅力のこと。PoDは、自社の強力な差別化ポイントとなり、採用競合とバッティングした際に、自社を選んでもらうことに繋がる重要なものです。
社員のみで考えていても見つからないときは、外部の視点を入れてみるのもおすすめ。リレーションが深いエージェントや入社予定の内定者などに尋ねてみると、PoD作りに示唆を与えてくれる意見が聞けるかもしれません。
もしPoDが見つからない場合も、そのまま採用活動を進めるのではなく、できるだけ早く作ることから始めることが採用の成功に繋がります。
⑤ブランディング設計
採用ブランディングを設計しておくことで、自社の採用施策に一貫性が生まれます。その結果、魅力やメッセージを色濃く伝えることができます。設計したら、自社の採用ブランディングに必要な情報を設計図として言語化・整理しておくと、施策に活かしやすくおすすめです。
具体的に図にするべき項目は以下の通りです。
- ブランドターゲット(象徴的な候補者像)
- インサイト(候補者の心の琴線に触れるポイント)
- コアバリュー(一言に集約される核となる価値)
- パーソナリティ(人格イメージ)
- ベネフィット(物理的・心理的な便益)
- エビデンス(裏付けとなる事実や根拠)
⑥CXの策定
最後に、CX(Candidate Experience/候補者体験)を策定します。
CXの目的は、合格不合格に関わらず、候補者に「この会社の選考を受けてよかった」と思ってもらうことです。それに向けて、候補者とのタッチポイントや採用フローを設計していきます。
「認知→応募→各選考フロー→内定・入社」の各フェーズごとに、自社のブランディングに沿った候補者体験を生み出すための施策を作っていきましょう。
通年採用の事例
ソフトバンク
ソフトバンク社では、ユニバーサル採用を提唱しています。
このユニバーサル採用では、新卒・既卒を問わず、候補者の応募したい時期に自由にエントリーできるようになっています。
また、選考の中身もインターンシップやNo.1採用などさまざまなものが用意されており、多様なフローとなっています。
ファーストリテイリング
「ユニクロ」や「GU」を運営するファーストリテイリング社では、通年採用のほか「FRパスポート」という不合格となった学生が次年度にまた再挑戦できる制度も用意しています。
通年採用には大学1年次から応募できるため、最大4回チャレンジできることとなります。自社への志望度が高い人材や、一度の選考ではわからない魅力を秘めた隠れた原石を集められる手法なのではないでしょうか。
ヤフー
ヤフー社では、海外留学経験者や博士号取得者など優秀かつ多様な人材の採用のため、新卒と中途採用の垣根を取り払い、30歳以下であれば誰でも応募できるポテンシャル採用という形で通年採用を行っています。
入社時期も4月または10月となっており、留学後の入社もスムーズに進みそうな制度となっています。
リクルート
「心が動いたら。そのときが、あなたの就活。」をスローガンに、新・通年採用を行っているのがリクルート社。
一年間いつでも応募できるのはもちろんのこと、エントリーシートのほかに自由なアウトプットでエントリーできたり、学生の取り組み別にイベントを行ったりと、多様な学生を採用するための取り組みが特徴的です。
楽天
楽天社では、エンジニアを対象に通年採用を行っています。入社時期も自由と非常に柔軟性のある制度です。
全職種の新卒採用で導入するのが難しい場合も、エンジニアのような採用が難しい職種だけに絞って通年採用を行ってみるのもよいかもしれません。
メルカリ
メルカリ社でも、4月及び10月入社を念頭に置いた通年採用を行っています。
また、メルカリ社で特徴的なのが、16歳以上であれば学歴や国籍を一切不問としていること。こうした属性にかかわらず、能力の高い人であれば積極的に採用したいという姿勢が窺える制度です。
チームラボ
チームラボ社では、学歴や卒業年度を不問とする通年採用を行っています。
実際に、博士課程修了者や海外大学の卒業者などが入社しています。また、のちに控える作品制作に集中するため早く就職活動を終わらせたかったという方もおり、学生側の多様なニーズに応えています。
まとめ
今回は、新卒採用における通年採用について紹介しました。
通年採用は、就活ルールの形骸化、グローバル化に伴った留学生の増加などを背景に広まりつつある採用のかたちです。
これまでの一括採用では採用が難しかった多様な人材にアプローチができたり、より深く一人ひとりの学生に向き合えたりと、メリットも多い通年採用ですが、志望度の低い学生が集まってしまうなどのデメリットもあります。導入を考える際は、メリットとデメリットを照らし合わせた上で、慎重に判断をしましょう。
また、通年採用をうまく行かせるためには、ペルソナ設計やCX設計などの採用戦略設計が極めて重要になってきます。どんな学生を採用したいのか、どうすれば採用したい学生に自社を魅力的に思ってもらえるのかを考えながら戦略を立てていくことが必要です。
HeaRでは、スタートアップ・ベンチャーを中心とした100社以上の採用コンサルティングのノウハウを活かして、通年採用のサポートも行っています。通年採用を始めたいがノウハウがなく踏み切れずにいるという企業さまは、ぜひ一度お気軽にご相談ください!
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